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「ひとまず、安心ですかね」
「鍵は閉めたか？」
「はい。誰にも見られてません」
「そうか…。服も全部変えてるよな？靴下もだぞ。血がついてる可能性がある」
「大丈夫です。全部、ヤツと一緒に埋めてあります」
「…よし。ここはしばらく安全なはずだ。残りの入金を確認するまでは、ここに身を潜める」
「はい」
「お前も休んでおけ。まだまだ体力がいる」
「…あの、俺。…い、いや、すいません」
「…ヤツがどんな人間だったかなんて、どうだっていいことだ。殺されるべき人間だとか、守るべき人間だとか、そんなんは全部、そう思いたい奴らの妄言だ。人はみんな、死ぬために生きてんだから」
「…。」
「…おい」
「す、すいません。ちょっと色々考えちゃって…」
「ちげぇよ馬鹿。…人の気配だ」
「え、いや、そんなはずは…」
「手前ぇ、付けられてたんじゃねぇか」
「い、いえ！ちゃんと確認しました。ここへ入る時も、通りまで見たんです。誓って、誰も居ませんでした」
「べらべら言い訳すんな。実際、誰かここを探りに来てんだ」
「すみません…」
「クソっ…。何とか撒くしかねぇ」
「あ、あの、兄貴。ここの裏のバス通りに、ケンジの店があります。多分店は閉まってますが、隣のガレージなら入れます」
「…そこへ移るか。これで攪乱してこい、その隙に出る」
「はい。任せてください」
「よし、行け！」



「こっちだ」
「兄貴！」
「よく戻ったな」
「いや、大したことありませんでしたよ。ヤツは、かなり鈍いですよ。煙が上がっても、ほとんど気づいてないみたいでした」
「油断するなよ。付けられてないか、ちゃんと確認しただろうな」
「もちろんです。二度とヘマはしません」
「そうか…。ふぅ、ようやく一息つけるな」
「お疲れでしょう。見張っておきますから、兄貴は休んでください」
「ああ」
「…」
「なぁ」
「…はい」
「感じてるよな？」
「こんな、いや、ありえません」
「見られてる。確実に。…はぁ。お前は、泳がされたんだよ」
「そ、そんなことって…」
「この調子じゃ、死体が見つかるのも時間の問題かもな。あるいは、既に見つかっているのかも…」
「に、にげましょうよ」
「ああ、逃げられるもんなら逃げたいが…」
「パトカーのサイレンも聞こえないんですよ。サツが張ってるようには思えません」
「隠れてんだよ。そうやって安心させておいて、ここを出たらあっという間にお縄だ。クソ」
「こ、ここの車を借りて逃げましょうよ。そうだ！ケンジに連絡とってみます」
「よせ。ここへ来てすぐに監視の目がついたんだぞ。ケンジは既にサツと繋がってる可能性だってある」
「…ど、どうすれば」
「妙な気を起こすなよ。あくまでも冷静に、打開策を考えるんだ」
「床下に、銃があるんです」
「話を聞いてなかったのか？落ち着け！」
「抗争の拠点として使ってて。俺もチームにいたことあるんで、ここは良く知ってるんです」
「馬鹿な真似はよせ。俺が今何か策を考えるから」
「お願いします。俺、兄貴の役に立ちたいんです」
「お前がそれで暴れて、それでどうなる？結局お前が捕まって、芋づる式に俺も挙がるだけだ」
「俺は絶対兄貴を売りません」
「売るとかそういう問題じゃねぇ。どうしても俺との関係が浮かんでくるもんだ。な、分かったら大人しくしてろ」
「兄貴。そもそも俺は、捕まるつもりもありません」
「お前なぁ」
「俺が人質役をやるんです。兄貴がチャカをもって、そんでサツと交渉する。逃走用の車でも用意させましょう。そしたら、俺も兄貴も逃げられます」
「…。なるほど、お前にしては冴えてるな。たとえ向こうが俺たち二人を特定していたとしても、人質を取ってるとなれば、ひとまず膠着状態をつくれるかも…」
「悪くないアイデアじゃないですか？」
「あぁ、いけるかもしれんな。顔を隠すものはあるか。二人分だ」
「覆面はあります。たくさん」
「よし。一か八かだが、希望はあるぞ。腹決めろよ！」
「はい！」


「準備はいいな」
「はい」
「威嚇のために、弾は一発だけ込めてある。落ち着いて動けよ」
「大丈夫です」
「よし。出るぞ」
「はい」
「おらぁ！見ろ…」
「…。」
「誰も、いないのか？」
「まだ油断できません。視線は感じます。どこかに隠れてるのかも」
「そ、そうだな。…このまま、あの雑木林を目指す」
「はい」



「どうですか？」
「いや、追手の姿は見えないな。サツじゃないのか？」
「…兄貴」
「どうした」
「ま、またですよ」
「…。」
「いますって、また！なんで！さっき確実に撒いたのに…」
「なぁ、思うに…、こいつは、サツでもなきゃ、人間でもないんじゃねぇか？」
「人間でもない…？」
「俺らが殺したあいつが、恨んで化けて出やがったんだ」
「あ、兄貴。そんなことが起きるわけないじゃないですか。幽霊だっていうんですか？」
「もう、そうとしか考えられん。お前だって、認めたくないだけで、何となくそう思ってるんじゃないのか？」
「そんなこと…。も、もし仮に幽霊だとしたら、もうどうしようもないじゃないですか。これから先、一生この視線を感じながら生きる…。そんな、そんな…」
「人を殺すってのは、こういうことなんだな。こんな重荷を背負っていかなくちゃならないのか…」
「お、俺は耐えられません。こうなったら、いっそ、その銃で殺してください」
「馬鹿野郎。それでお前まで化けて出るようになったらどうする」
「俺は絶対兄貴を恨んだりしません！」
「はぁ…。そういう問題じゃねぇんだよ」
「…。」
「なぁ、自主しようか」
「え…」
「この視線は、霊なんかじゃなく、俺たちの罪悪感が生み出した幻かもしれない。俺達は、人を殺せるような人間じゃなかったんだよ」
「兄貴…」
「罪を償うんだ。そんで、もし赦されるなら、今度は真っ当に生きるんだ」
「…わかりました」



「六十番、出所だ。ご苦労。」
「お世話になりました。」


「兄貴！」
「お前…、来てくれたのか。」
「当り前じゃないですか！」
「なぁ、どうだ？お前、あれから、あの視線を感じたか？」
「いいえ…。兄貴が言ったように、俺の罪悪感が作り出した、幻だったのかもしれません。真摯に自分の罪と向き合って、心から反省したんです。長い…、ほんとうに長い時間を…、うぅ…」
「いいんだ。遅かれ早かれ、必ず自分の罪と向き合わなければならなかった。俺たちは、むしろ早く気づけたことに感謝すべきだ」
「はい…」
「…。」
「兄貴？」
「…どうして。」
「…あ」
「幻覚なんかじゃ、なかったのか」
「俺たちのこと、ずっと恨んでいるんですね」
「…俺たちは、もう十分罪を償ってきた。これ以上、こいつに煩わされる必要も、ないんじゃないか」
「しかし…」
「高名な和尚のいる寺を知ってるんだ。中でそういう話を色々聞いてな。視てもらわないか」



「我々は、罪と真剣に向き合って参りました。彼から解放される資格があるのではないでしょうか」
「あ、今。今も、見ているんです。私たちの事を。私たちが彼にしたことは、到底赦されることではありません。しかし、このままでは、気が狂ってしまいそうで…」
「うむ。話は良くわかりました。お二人の罪を仏がお赦しになるかは、私にはわかりません。しかし、迷える魂がいるなら、仏様のもとに正しく導かなければならないのは確かなことです。視てみましょう」
「あ、ありがとうございます！」
「ふむ、どれ…。うぅん、なるほど…」
「どうでしょうか。霊は、成仏しましたか？」
「いいえ、あなた方には、なんにも憑いておりませんでした」
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	<p class="bound">
    <span>た</span>
    <span>だ</span>
    <span>今</span>
    <span>休</span>
    <span>憩</span>
    <span>中</span>
    <span>.</span>
    <span>.</span>
    <span>.</span>
	</p>
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 随時更新。加筆、修正を行う場合があります。
  2023/10/22　諸事情により、掲載話の数本を非公開にさせていただきました。
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